理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が対応する患者や利用者の中には、支援困難な方がいる。
支援困難事例を担当すると、セラピストも混乱をしてしまい冷静な判断ができず支援内容が一貫性や整合性を維持できなくなることがある。
支援困難事例に直面した時こそ、冷静になり支援方法の基本に立ち戻ることが重要である。
支援困難事例の発生には3つのパターンがある。
1.個人的要因
患者・利用者に個人的な要因がある。
強い不安・精神的不安定性・気力や意欲の低下・判断能力の低下・病気
2.社会的要因
社会や生活環境に要因がある。
生活環境の悪化・家族の病気・家族との不和・近隣住民との関係性悪化・孤立
3.不適切な対応
援助者側の不適切な対応に要因がある。
本人の意思の無視・連携が不備・ネットワークが構築できていない。
各要因はそれぞれ個別で作用するよりも、複合的に重なり合うことで、支援困難事例が生じる。
例えば次のような事例が考えられる。
利用者が認知症を発症し、その娘には精神障害がある場合に、援助者が娘の精神障害を把握せずに、利用者の介護をお願いしたとする。
その結果、娘の精神障害が悪化して、利用者への虐待が生じた。
この場合、個人的要因・社会的要因・不適切な対応がすべて混在している。 支援困難事例への対応における基本的な視点
支援困難事例への働きかけで重要なのは、「価値」に基づいた援助を実践することである。
対人援助は、知識・技術・価値という3つの要素で構成されている。
援助者は価値を対人援助の根拠として専門的な知識や技術を用いて利用者を支援する。
この場合の「価値」とは、援助者の個人的な価値観ではなく、対人援助の専門職の共通の価値観である。
価値の中核を成すものは、「取り組みの主体を本人におく」というものである。
「取り組みの主体を本人におく」とは具体的には以下のような取り組みとなる。
1)本人のいるところから始める
本人の人生観・生き方・価値観などについて理解を深める。
2)最初の一歩を支える
本人の存在を尊重する。
本人が存在している意味や価値を本人が感じられるように支援する。
3)援助関係を活用する
本人と援助者に信頼関係を構築し、本人の居場所を確保する。
4)本人が決めるプロセスを支える
援助過程において、本人が決めるプロセスを尊重し、主体性を確保することができるよう働きかける。
5)新しい出会いと変化を支える
本人を取り巻く周囲の家族や友人、地域住民などとの関係を調整し、新しい出会いができるように働きかける。
本人と新しい関係者が新しい関係を気づけるプロセスを支える。
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、支援困難事例に直面すると自分の考えている理学療法・作業療法・言語聴覚療法を患者や利用者に当てはめようとしてしまう傾向がある。
しかし、支援困難事例だからこそ、主体性を本人においた取り組みが必要となってくる。
「本人が自己決定できるプロセスを如何に作り出すことができるか」という技術がセラピストには求められる。
執筆者
高木綾一 株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術)(経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授